2010年11月


「環太平洋経済連携協定(TPP)」参加、決断のとき
 

香港に本社を構えるのが夢、と語るクライアント

 11月初旬、私どものクライアントが今後の事業展開のご相談に来所されました。
 欧州・アジアはじめ世界各地で活躍してきたビジネスマンが証券会社を設立され、「収益が出たら、かつて居住していた香港に本社を構えるのが夢」と、立ち上げたメンバーで語り合いながら頑張っているとの話。
 来所された日本人クライアントは、「日本人であるとともに地球人ですから」。
 確かに、そういう時代に入ってきたように思うのです。

 1ドル80円を割る寸前まで円高が進み、法人税減税は検討されつつも、高額所得層には配偶者控除に所得制限が検討されるなど、法人も個人もこのままでは日本の空洞化がかなり進んでいくのでは、と日々の業務を通じて実感しています。
 人口4,000万人しかいない韓国は、内需だけでは経済が成り立っていかないことを早々に痛感して、外需を求めて海外に展開。
 人口1億2000万人の日本は、何となく内需だけで経済が成り立っていくような思いでいたために、外需を求めた海外展開で遅れ、遅れを取り戻しつつある中で、急速な円高での輸出産業の打撃。

 

国際競争に苦しむ中での、「環太平洋経済連携協定」論争


 TPPやらFTAと聞いて、急いで用語解説を読んだ方もおいでかと思います。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の原型は、2006年にシンガポール・チリ・ブルネイ・ニュージーランドの4カ国が結んだ自由貿易協定(FTA)。
 既に参加を表明して、加盟交渉中なのが、米国・オーストラリア・ペルー・ベトナム・マレーシアの5カ国。
 さらに、日本・韓国・メキシコ・カナダなどが参加を検討中。
 貿易、投資、人の移動はじめ幅広い分野での自由化を目指しているだけに、自由貿易協定投資(FTA)や経済連携協定(EPA)よりも、参加に向けたハードルが高いのが特徴です。参加表明しただけで加盟できるわけではなく、既に参加または参加表明している9カ国すべてから交渉参加の同意を取り付ける必要がある点がひとつのポイントです。
参加できなければ、貿易や投資の条件・ルールづくりの協議にすら加わることができないので、ただでさえ円高で苦しむ日本企業が国際競争でさらに不利になるのでは、との指摘も出ているのです。

 

「環太平洋経済連携協定」の問題点はなにか?

 日本経済新聞の論点整理に関する記事を掲載しておきましたが、主たる論点と
して「農業改革」「非関税障壁の撤廃」「人の移動の自由化」などが上げられています。
 やはり一番の難関は、「農業改革」。
 TPPに参加すれば、すべての物品に関する関税を撤廃しなければならないという原則があります。いわゆる、昔から(何度となく議論されるべきだったのに)議論から逃げてきたともいえる農産物の輸入自由化問題です。
 またもや農家の戸別所得補償のような直接補償で補っていくのか、高い関税で守られたがゆえに強くならなかった農業の構造改革を進めるのか、そろそろ決断の時のように思うのです。

 第二の問題は、「非関税障壁の撤廃」。
 いわゆる関税以外の分野で自由な貿易を制限する「非関税」障壁を撤廃できるかどうか。郵政事業が絡むだけに、これにも政治決断が必要です。

 第三の問題は、「人の移動の自由化」
 移民を受け入れる土壌のある米国などとは異なり、日本人にとっても高いハードルであることは確かです。

 民主党政権は、11月9日の閣議決定に向けて調整している旨の報道が、連日のようになされています。
 TPPの厄介な点のひとつは、参加表明しただけで加盟できるわけではなく、要は参加が遅れるほど、ルールづくりの交渉に乗り遅れてしまうこと。結果として、参加が遅れれば遅れるほどルールづくりに参加ないため、出来上がったルールが自国に不利になってしまうこと。
 国内の政治課題に決着をつけ、海外諸国とのルールづくりに早期に踏み出すか。
 まさに前述した、1億2,000万人の国内市場だけで成長が望めるのか、環太平洋を中心とした海外市場戦略を急ぐのか、日本にとっても決断の時です。