2009年10月


『減税国家』は、目指せないのか!

 『平成22年度、一般会計概算要求額、95兆381億円』との10月17日付の新聞各紙トップ記事――90兆円をはるかに超える数字に、思わず息を呑んだ方も少なくなかろうと思います。

 前日に記者発表した、まさに政経塾の先輩でもある野田佳彦財務副大臣の顔を思い浮かべつつ、これだけ膨らんでしまった数字が新聞記事として大きく掲載されると、その額の大きさに驚かざるを得ませんでした。

 9月末に、自民党政権時の概算要求を白紙撤回することを閣議決定。
 それを受けて、10月15日までに再提出することを求めていたことに基づくものです。

 平成21年度当初予算に比べて、6兆4,900億円の増。政府内でも調整が難航していた生活保護の母子加算の全額復活なども盛り込ましたが、90兆円超というあまりのボリュームに、予算のお目付け役ともいえる財務大臣が、「財政規律を維持するため、より厳しく査定しなければならない」とコメントする場面も。

 さらに追い討ちをかけるように、税収が当初見通し(46兆1千億円)よりも6兆円も減り、税収の40兆円割れは確実な状況です。
 そうすると、95兆−40兆=55兆の計算式からしても、不足分は50兆円を超える新規国債発行で賄わざるを得ません。

 「一年間の税収<新規国債発行額」という、まさに前代未聞の事態です。

 そんな中、10月15日に一冊の本が出版されました。

 タイトルは、『住民税が安くなる!?〜「減税自治体への道」』。
 著者は、山田宏・杉並区長。

 減税自治体構想とは、毎年、予算の一定割合を摘み立て、税収の増減に左右されない強固は財政基盤を確立し、将来はその利子により住民税の減税を目指そうという発想です。(右の画像をクリックするとパンフレットがご覧になれます)

 古くは、福沢諭吉翁が「公務員を3分の1に削減しても、政務に支障をきたさない。」「さらに省庁の統廃合等を行えば、歳出は8分の3まで削減可能。」と主張。その削減した額を積み立てて運用すれば、20年後には利子収入だけで歳出予算を賄うことができる=無税にできる、と説かれました。

 さらに昭和50年代、松下幸之助翁が唱えた「無税国家論」。その構想実現に向けての一里塚が、松下政経塾創設だったともいえるのです。

 減税自治体構想は、具体的には積立金を1.5%以上の利回りで運用することを前提としています。自治体ゆえに堅実な運用が求められることから、10年モノ国債の利回りを基準にしている訳です。

@ 毎年の予算のほぼ1割の積み立てが可能―という研究会報告に基づくと
A 10年後には、区民税の10%減税が可能。
B 20年後には、区民税の15%減税が可能になる、というものです。

 この杉並区の挑戦――正直申し上げて、どのような自治体でも目指せるものではありません。

 大前提として、職員数削減等をはじめとする行政改革による区債残高(借金)を限りなくゼロに近づけておかないと、長期的な運用を行うための基金が確保できません(杉並区の区債残高は、平成23年度にはゼロになる予定)。借金をしてまでの減税、ましてや借金を残しての減税では意味がないからです。

 また区民からは、今1割の予算を使い切らずに残すくらいならば、今の喫緊の事業に使って欲しいとの声も、当然出るでしょう。その際に、職員数削減等の行政として最も手を付けにくい改革実績でもなければ、区民は納得しない筈だからです。

 これまで、『住民税』という税金は、あまり意識されてきませんでした。

 ふるさと納税の際に、若干、注目を集めたくらいです。

 『住民税』は、地方税。課税所得×(道府県4%+市町村6%)=課税所得×10%という、一律の税率で課税されてきます。

 一律にかかってくる分、所得が高い方は、相当の負担を感じている税。
 しかし、特別徴収という給与天引きという制度を利用されている方も多いせいか、負担感が実感されていないのも、また事実。
  杉並区のような特定の自治体で、税率が下がっていくと、例えば高額納税者が負担減を求めてその自治体に引っ越すことも十分に考えられるでしょう。

 私の住まいは、新宿区。新宿区からくしの歯が抜けるように、税金の安い隣の隣の杉並区に住民移動などという事態も、将来的にないとは言い切れません―。

  日本の膨らみすぎた借金財政、高い税負担に見切りをつけて次の世代が隣の隣の国へ移住、などという事態にならないように―― 私たちの世代の責任です!